1章:6話

プレイヤー

ゲームマスター
・モノクロ

プレイヤー
克曇満
めいす
おれつえー
こんにゃく
・名無しドッター

よしのに続き、ムニサも「脱落」してしまう。
不可解な敗北を遂げて行く脱落者達を前に、残されたヒロイン達は戦慄し、疑心暗鬼へと陥っていく。
二人のヒロインを飲み込んだ長い夜がようやく終わりを告げ、陽の光がヒロイン達を照らすが、彼女達の心の霧を晴らすことは出来ない様だ。
生き残ったヒロイン達は周囲を警戒しながら昨晩の情報を交換する。そんな中、突然シャロンの携帯電話の着信音が鳴り響くのだった。

復活

電話の内容に応じ、一路カルテルへと向かうヒロイン達。
周囲を警戒しつつ人目を避けるその姿は、正義の味方というにはあまりに惨めなものだった。

やがて彼女らはカルテルの正面玄関へと辿り着く。
昨日まで頼もしく安全な場所に思えていた場所であったが、その内部でムニサが「脱落」させられた今となっては、その立派な佇まいもどこか頼りなく思えた。

現在のパーティ

現在このシーンに登場しており、パーティを組んでいるキャラクターはNPCを含めて4人。
・蔦梨らうた
・シャロン=ホークス
・倉田秋恵
・のぞみ

「着いた……が、情報とは一体何なんだろうな」

カルテル

よしのが所属しているアイアン・メイデンの武衣栄市支部のこと。
繁華街から少し外れた場所にあるようだ。

「よしのが目覚めたとか言ってたけど。
犯人の顔でも覚えていたのかしら?」

「よしのお姉ちゃん、無事だったんですね……よかった……」

よしのとGMの耳打ち会話

職員「今、シャロンさんの携帯に連絡を入れ、4人を呼び出した様です。
さて、これからの段取りはどうしますか、ラピス?」

「ありがとうございます。
まずは例の部屋に4人を誘い込みましょう。私は事前に奥の部屋にて待機しておきます。
扉の施錠が完了しましたら私が出ていき、犯人を告発します。
もし、彼女が抵抗するようなら……その時は、容赦しません」

職員「わかりました。そのようにしましょう」

ヒロイン達が玄関前で話していると、自動扉が開き、中から職員が現れた。
職員はよしのの回復を喜んでか、少し明るめの表情でヒロイン達を迎えた。

職員「よく来てくれました。さぁ、外は危険です。早く建物の中に……」

「そうさせてもらうわ……」

「ああ……助かります。
それで、情報というのは?」

職員「まずはラピスに面会して頂きたいと思います。
彼女の容態が回復したので、色々と話を聞いたのですが……」

「あ、あの! 職員さん!」

ラピス

ヒロインであるときの、よしののコードネーム。
基本的に、プレイヤーであるヒロイン達がチームで行動する時にコードネームを使用するが、アイアン・メイデンに所属しているよしのはカルテル独自のコードネームを使用している。

秋恵が突然大きな声で職員を呼ぶ。

「その……トイレ、お借りしてもいいですか?」

のぞみ

プレイヤーパーティに同行しているNPC。
1章4話で初登場し、その後「鬼ごっこ」攻略の為にプレイヤー達と協力することになった。
性格はちょっとキツめ。性経験はある程度豊富な模様。

職員「あなたは……秋恵さん、でしたね。
えぇ、構いませんよ。そちらの通路の先にあります」

「あうぅ、ありがとうございますー!」

股間を抑えながら、秋恵は通路の奥へと走り去っていった。

「頻尿かしら……」

「卵の毒がそっちの方向に作用したのだろうか……
ハルンケアが必要かな」

ハルンケア

老人性の尿の悩みに効くらしい飲み薬。
大鵬製薬より販売中。

「若いのに可哀相ねぇ……」

少女達が冗談を言い合っていると、どこかぎこちない足取りで秋恵が戻ってきた。
トイレには間に合った様だが、股間が気になるらしく、少々内股で歩きづらそうにしている。

あううぅ、おちんちんが、ぱんつに擦れて変な感じ……
い、位置が悪いのかな……? うーん……

「大丈夫か……? 調子が悪そうだが……」

「はぇっ!? い、いえっ、大丈夫ですっ!!
すっきりしました!」

「(さっきから、秋恵に近づくと……なんか……
不思議な匂いがするのよね……うぅ……?)」

職員「よろしいですか? では、こちらへ……」

職員が建物の奥へと案内する。
先日訪れた場所よりも更に奥の区域へと連れられている様だ。

アイアン・メイデン武衣栄市支部

外見は3階建て程度の建物。
内部は地下に深く掘り下げられており、緊急時にはシェルターのように使うことも想定されている様だ。

「……随分奥に行くのね?」

職員「ええ……ラピスは今、体調を調べるため検査室に居ます。
こちらの部屋になります、お入り下さい」

重く頑丈そうな扉を開くと、金属製の壁に囲まれた薄暗い部屋が現れる。
部屋の奥には更に扉があり、奥にもう一つ部屋があるようだ。
室内には特に検査器具などは見当たらない。

「この部屋は……? 検査をするような部屋には見えないんだが……」

「……? よしのも居ないじゃない。
奥の部屋に居るの?」

ヒロイン達が職員を問いただそうと後ろを向いた瞬間、大きな音と共に扉が閉じられた。

「え!?」

「な、何だ!?」

更に、先ほど見えた奥の扉が開く。
中から現れたのは……よしのだった。

「…………」

「よしの!? アンタ……っ!?」

既に変身した状態で、無言で歩いてくるよしの。
その手には弓と矢が構えられており、その矢が向いている先は……

「くっ……! へ、変身!!」

やっばぁ……! これ、バレてる?
ちっ、どうしたものか……圧倒的によしののほうがIV高いし、とりあえずガードしてから反撃ね……
なんとかして、秋恵とシャロンを取り込めないかしら……

らうただった。

「よしのさん!?」

「ど……どうなってる」

「大丈夫、変身すれば死ぬことはありませんよ」

よしのは低い声で呟く。

次の瞬間、引き絞られた弓から輝く矢が放たれた。
矢は3本に分裂し、それぞれが思い思いの方向かららうたに向かって襲いかかる。

よしの:マルチプルスナップ

対象:らうた

よしのMP:10 → 1

武器(4) + = ダメージ(11)
武器(4) + = ダメージ(12)
武器(4) + = ダメージ(15)

らうた:シールド

らうたMP:6 → 3

状態異常:噴乳により、受動行動の達成値に-4

ダメージ(11) – {魔力(4) – 噴乳(4)} = ダメージ(11)

「くうぅっ、い、いきなり何を……!」

らうたは魔力の盾を構えようとした。
しかし魔力を集中しようとした瞬間、乳首に鈍い快感が走った。深夜に搾ったはずの母乳が、再びらうたの乳房から溢れだしてきたようだ。

「ひぅっ!? ちょ、ちょっとまってよ……
なにも、こんな時に……!」

バッドステータス:ミルク

何らかの毒や魔法によって、妊娠の有無にかかわらず乳房にミルクが溜まっている状態。
あらゆる受動行動の達成値が-4される。

上手く盾を作り出せないらうたは、光の矢の嵐を正面から浴びてしまう。
光の矢は着弾した地点で爆散し、破片と衝撃波がらうたの衣服をずたずたに切り裂いていく。

「きゃああぁぁっ!!」

らうた:ダメージ

胸AP(20) – 11 = 胸AP(9)
腰AP(18) – 12 = 腰AP(6)
その他AP(4) – 11 = その他AP(0)

「ふぅん、服が破れただけですか……
まったく、無駄に頑丈ですね」

「な、い、いきなり何するのよ、よしの!!」

「どうしてのこのこやって来たんですか? まさか、このまま隠しおおせるとでも思ったんですか?」

よしの不機嫌そうにらうたを睨みつけ、再び弓を構える。
その目には昨日までの仲間に対する情は宿っておらず、明らかな敵意を投げかけている。

職員「では、ラピス。気が済むようにして下さい」

「ああ……すみません。段取りと違いましたね。 でも、顔を見たら我慢なんてできませんでした」

「ちょっと待ってくれ、話がどうも見えてこないのだが……」

「え……っ、ええ……??」

「何を言っているの……? ちょっと、あんた達、見てないで助けてよ!!」

くっ、バッドステータスが足を引っ張るわね……
次の攻撃は受け切れない……まさか、ヒロイン同士で犯されるってことはないだろうけど、ここでひん剥かれるのはちょっと……気に入らないわね。

鋭い眼光と輝く矢尻に射すくめられ、らうたは後ずさる。
しかし、入り口の扉は強固に閉じられており、逃げ場は無いようだ。
ただならぬ雰囲気に慌てたシャロンと秋恵は、素早く変身し事態に備える。

「何かわけがあるなら…」

「よしのおねえちゃん、どうしちゃったの!」

秋恵は明らかに怯えているものの、持ち前の正義感を奮い立たせ、らうたとよしのの間に立つ。
よしのは一瞬困ったような表情を見せるが、直ぐに弓を構え直し、秋恵を通して再びらうたを睨みつける。

「らうたさん……あの時私は貴女の顔を見ています。それだけ言えば説明する必要なんてないですよね?」

「な、何の話よ! 魔物にやられておかしくなってるんだわ……
催眠にでもかけられたのかしら……! あんたたち、戦闘の準備よ!」

「見ています」……ですって?
あの時はGMと相談して、顔を見られない状態でタッチしたはず……
もしかして、カマかけられてる?

「あのとき…?」

「……ああ、なるほど。わかりかけてきた」

なるほど、やはりらうたくんが犯人か。
まぁ、状況証拠から見てほぼ間違い無いからな……
しかし、鬼はキーワードを当てても「解放」されないのか。意外ではないが、ルールとして言及されていなかったのは驚きだな。
あとは、らうたくん自身がその事実を知らずによしのくんを陥れたのか、それとも知ってて犯行に及んだのかによって少し話が変わってくるが……

「あの職員もグルね! 私達はハメられたんだわ!」

狼狽するらうたを尻目に、よしのは弓を構えたまま一つの提案をする。

「確かに私の証言だけでは不十分かもしれませんね。
あくまで白を切るつもりでしたら、直接調べても構いませんよ?」

「調べるって…何をよ…?」

「鬼ごっこから抜け出せた者は、例外なく胎内からあるものがなくなります。
それを検査するための設備は用意しておきました」

「……!?」

……もしかして卵の事言ってる?
らっきいぃ~♥ 肝心な所で抜けてるわねぇ、よしの!
その検査とやらをくぐり抜ければ、私はシロって認定されるってことでしょ? いいじゃない、そんな検査いくらだって受けてやるわよ。
さてさて、あんまり喜んで受けても変ね……ちょっと演技して……苦しそうに……うふふ♥

「卵のこと……?」

「どうも……そのようだな」

ん……それはちょっと違うんじゃないか、よしのくん……?
らうたくんが犯人という事象と、卵が無くなるという事象は結びついていないはず……
ルールには「鬼が増えるわけではない」としか書いてない以上、ある程度の証拠にはなるだろうが、絶対とは……まだ言い切れていない。

よしのは弓を下ろした。
目には怒りの炎を保ったまま口だけは微笑みを浮かべ、らうたに最終通告を下す。

「そうです。らうたさんが犯人でなければ、あなたの胎内にはまだ卵が残っているはずです」

「あ、う、う……」

さぁ、どう出ますか、らうたさん……?
素直に謝るなら……貴女にもきっと事情があったのでしょう。納得はいきませんが、許して……あげないこともないです。
抵抗するようなら……逆に安心出来ます。私をハメた犯人は、生粋の悪者だったわけですから。その時は、カルテルの総力で貴女を叩き潰します!!

「我々のカルテルには、魔族の魔力を検出する機械を所持しています。
不測の事態に遭遇し、体内に魔族の体液や卵を注入された時にそれを検知するための物でして……もしそれで、あなたの胎内に卵が無かったら、わかりますよね?」

「…………」

うふ……うふふ♥
駄目だ、まだ笑うな……こらえるんだ……
この私に弓を向け、挙句に攻撃までしてきたんだもの……ちゃんと落とし前は付けさせなきゃね……!!

らうたは目線を自分の下腹部に落とす。心なしか顔色が青ざめているようにも見える。

「ら、らうたお姉ちゃん……?」

らうたお姉ちゃんが犯人……?
うーん、わからないなぁ……確かに怪しいところはあったけど、そんなことするような人には……見えないんだけど……

「…………」

「…………わ」

「……え?」

らうたの発言を確認するため、よしのはらうたに近づく。
次の瞬間、らうたはバッと顔を起こし、開き直ったかのような笑みを浮かべた表情を見せた。

「……いいわ、調べてみればいいじゃない!
その代わり、まだ私の中に卵があったら……アンタこそ、わかってるんでしょうね?」

「……いい覚悟です。では検査を始めましょうか。
職員さん、宜しくお願いします。」

……っ、予想外です……
謝るでも抵抗するでも逃げるでもなく、開き直るとは……
どういうことでしょう、検査用機器の故障でも期待してるんでしょうか……?
それとも、検査開始と同時に逃げ出すつもりとか……?
なるほど、そういうことですか。無駄ですよ、この部屋には逃げる隙間はありません。職員も腕利きのヒロインです。

「いいわよ、その代わり職員以外の奴は部屋から出てってよ。
いきなりタッチされてやられるなんて冗談じゃないわ。」

「構いませんよ。どうせこの部屋からは逃げられません。
らうたさんがみっともなく逃げると思って、色々準備させて頂いてますから」

「馬鹿言わないでよ。なんで逃げる必要があるわけ?
私は悪いこと、何もしてないもの」

「……それは調べればわかる事です。」

「ええ。はっきりさせましょ。それじゃあね。」

らうたは職員に連れられ、扉の奥へと入っていった。
しばらくして機械が動く音が鳴り響き、検査がはじまったことが扉の外のヒロイン達にも伝わってきた。

「よしのお姉ちゃん…… どういうことなの……?」

鬼ごっこの詳細なルール

  • プレイヤー達5人は『鬼ごっこ』に参加させられている。
  • 『鬼ごっこ』に参加しているヒロインは子宮に魔物の卵が寄生している。
  • 鬼ごっこ
  • 各ヒロインはそれぞれ、プレイヤーのハンドルネームと同じ「キーワード」を一つずつ持っている。
  • ヒロインにタッチし「キーワード」を言い当てると、言い当てたヒロインはゲームから「解放」され、言い当てられたヒロインはゲームから「脱落」し罰ゲームとして魔物を出産させられる。
  • 発した「キーワード」が間違っていた場合、発言者は「脱落」し罰ゲームを受ける。
  • 『鬼ごっこ』なので、「鬼」が居る。「克曇満」のキーワードを持っているヒロインが「鬼」。
  • 制限時間は3日間。3回目の0時を向かえたらタイムリミット。タイムリミットに到達した場合、「鬼」がゲームに残っている場合は「鬼」以外の全員が罰ゲーム。「鬼」がゲームから離脱している場合は全員「解放」される。
  • 自分で自分の「キーワード」を自白してしまうと「脱落」、罰ゲーム。
  • 細かいルール
  • 自白に関して、「キーワード」を紙に書いて伝える等の手段も許されない。「キーワード」を自白する行為全てが禁止される。
  • 誰も居ない空間で自分にタッチし、自分の「キーワード」を言った場合も「脱落」。子宮に卵という第三者が居るため。
  • 「鬼」は他者を「脱落」させても交代しない。ケイドロに近いルール。
  • 「らうたさんが私を陥れた犯人だということです。
    そして、人を陥れた者は、褒美に自分だけは助けて貰える……
    胎内に植え付けられた卵が消え、『解放』されるんです。」

    「らうたお姉ちゃんのお腹に卵が無かったら、らうたお姉ちゃんがよしのお姉ちゃんを陥れたってことになる……?」

    「その通りです。そしてらうたさんの胎内には卵は絶対にありません。」

    「……卵、あるんじゃないかな」

    「え?」

    その時、機械の音が消えた。
    中で職員とらうたが何か話す声が聞こえ、その後扉が開き、二人が元の部屋へと戻ってきた。

    「うふふ、待たせたわね♥」

    職員「ええと……結果を率直にお伝えします。
    彼女の胎内にはまだ卵が存在しています」

    ええっ!?

    まぁ……そうだろうな。証拠にバッドステータスも消えていない。

    ば、化かしあい……怖いです……

    え……え……えぇ……?
    な、何かの間違い……ですよね? でも、職員の方が嘘をつくはずがないし……らうたさんが何らかの力で隠している……? いえ、そんなスキルも存在しない……
    わ、私……とんでもない間違いを?

    「あ……あれ? えっ……あ、あの……」

    「どういうことよ、さっきの攻撃は」

    さぁって、これで動きやすくなったわね……
    勝手に私のことを犯人に仕立て上げた代償として、私の言う事には従ってもらうわよ……!
    まぁ、私が犯人なんだけどね♥

    先ほどまでの立場関係は完全に逆転したようだ。
    よしのは完全に狼狽えており、らうたは勝ち誇った表情でよしのを睨みつけている。

    「いえ、あの……だって……わ、わたし……」

    「らうたお姉ちゃんはやっぱりなんでもなかったなんだね!」

    味方の犯行なんて可能性、私は全然考えてなかったなぁ……
    今回はらうたお姉ちゃんが犯人ってわけじゃなかったけど、ちゃんと色々考えて行動しないと……

    「当たり前じゃない、そんな卑怯なマネして何になるっていうのよ」

    「……うーむ」

    よしのくんは完全に混乱してしまっていて、鬼の可能性について完全に失念しているな……
    このままらうたくんに調子付かせてしまうのは非常にまずい。幾つか聞きたいこともあるし、質問をしながら落ち着かせよう。

    よしのの目は完全に力を失い、らうたの視線を受け止められずにいた。
    職員に「本当に無かったんですか?」と確認するような目線を送るが、職員は静かに首を振る。
    らうたはその様子を見て、さらに職員にも噛み付いて行く。

    「それよりこの落とし前、どう付けてくれるのかしら? そこの職員も」

    職員「私たちはラピスの推理に従っただけです。
    むしろ、私達のおかげであなたの潔白が晴れたと言ってもいいんじゃないでしょうか?」

    「馬鹿言ってんじゃないわよ!! 私は撃たれたのよ!?
    頑丈に生まれてなきゃ、危うく死ぬ所だったわ!」

    係員は不遜な態度でらうたに応じるが、それがらうたの神経を逆撫でした様で、二人の間で言い争いがはじまってしまう。
    よしのはその横ですっかり萎縮してしまっていた。

    「ご、ごめんなさい……絶対らうたさんだと思っていたんです」

    「あー……うむ……俺も幾ばくか聞きたいことがあるんだが」

    推理

    「まず、よしのくんは何故動ける? 先に『脱落』させられたこだまくんは
    目を覚ましても常に発情してしまい、とてもじゃないがマトモな話が出来る状態では無かったが……」

    こだま

    1章1話の、シャロンが通学している最中に倒れていた少女。その後警察に保護される。
    1章3話で目を覚ますが、卵の毒によって精神と肉体を淫乱に変質させられており、まともな会話が出来なかった。

    「カルテルの治療がよく効いた様です……
    しかし、今でも気を抜くと、頭の中が妙な気持ちに支配されそうで……」

    職員「よしのの強い意思によって、抑えられている部分も多い様ですね。
    自分を陥れた犯人を捕らえるいう強い意志……」

    「まぁ、勘違いだったわけだけどね?」

    「ぐっ……」

    「先程、よしのくんはタッチされた際に犯人を見ることが出来、それがらうたくんだと言っていた。それは本当なのか?」

    「そうよ。どういうことなの?」

    「その……あの時の状況から、犯人はらうたさんしか居ないと思っていまして……」

    まぁ、そうだろうな。普通に考えればそうなるし、恐らくそれが正解だ。
    しかし……それを告発するのは中々勇気が要る。よしのくんはそういう意味で非常に勇気ある人だ。
    ただ、詰めが甘かったな。ここは俺がフォローしよう。

    「何よ、カマかけだったってこと? 天下のアイアン・メイデンのエージェント候補生様がやることかしら?」

    「う……ううう……」

    やっぱりカマかけだったわね。
    GMが私だけ不利になる情報を出す事も考えづらいしね。
    ……とすると、私がよしのをハメた証拠って何一つ無いわけね。どんな推測がされようと、私が証言さえしなければ犯人は確定しないってことじゃない。

    「幻覚を見せられたとか、犯人が変装していたとかじゃないの?
    アンタ、すっとろい頭してそうだし、騙されたんでしょ」

    「幻を見せる魔法……コロナの仕業……?」

    うー、今回の魔物は幻覚だったり変身だったり、まっすぐ来てくれない敵が多すぎです……誰が犯人なんだろう……?

    「メガロも変身能力を持ってたわね」

    おっ、いいわよ、秋恵!
    適当に言っただけだけど、いい方向に行きそうね。NPCのせいにするのが一番丸いわね。

    「……ふむ、ちょっといいか?」

    自前の探偵手帳に目を落とし考え込んでいたシャロンが、何かを思いついたような仕草を取る。

    「何よ、ボサボサ」

    「……鬼は『解放』されるのか?」

    ぎくっ!

    「ど……どういうことですか?」

    「鬼が誰かを『脱落』させた場合の処理は明示されていない。
    もし鬼が誰かを『脱落』させた時点で、自身が『解放』されてしまうとすれば、その時点でゲームが維持出来なくなってしまう」

    「それも鬼の勝利条件ってことでしょ。
    さっさと鬼が勝利すればするほど、大勢のヒロイン達が罰ゲームを受けることになる。
    魔族たちも大喜びじゃない。」

    「俺には、あの夢魔どもがそんなお粗末なルールを設定する様には思えなくてね」

    あの夢魔ども

    コロナとリオンのこと。

    コロナ

    ヒロイン達を「鬼ごっこ」に参加させた張本人。見た目はゴスロリ衣装に身を包んだ少女だが、中身は夢魔。
    現実世界と夢の世界を自由に行き来出来、ヒロイン達の胎内に魔族の卵を容易に仕込むなど、並外れた力を持っている。
    一度決めたルールは出来るだけ曲げないのが信条の様だ。

    リオン

    馬の頭と人間の上半身と馬の下半身を持つ男の夢魔。夢の中や現実世界でヒロインを強姦するのが趣味。
    女性も男性も好きなコロナとは利害関係が一致しており、コロナはリオンがヒロインを強姦する姿を見て楽しんでいる様だ。

    「……何が言いたいのよ」

    「もし、よしのくんを襲った犯人が鬼であったなら……
    そして、鬼が他者を『脱落』させても『解放』されないのであれば……
    その犯人の胎内には、まだ卵が……」

    「いい加減にしなさいよ! 疑われたから検査に応じてあげたっていうのに、まだ私が疑われなきゃいけないわけ!?」

    激昂したらうたが叫ぶ。
    秋恵とよしのは大声に驚くが、シャロンは落ち着いた様子でらうたから目線を逸らさない。

    「お、お姉ちゃん達……喧嘩はよくないです……」

    「…………」

    まだ……らうたさんが犯人である可能性はある……
    と言うよりも、ほぼ間違いなくらうたさんなのでしょう。でも……

    「……そうだな。明示されていない以上、ここで言い争っても仕方がない」

    証拠不十分……か。
    らうたくんの犯行を立証することは、事実上不可能だな。
    探偵たるもの、憶測だけで犯人を確定することは出来ない。これ以上は……追求出来ないな。

    「全く、冗談じゃないわ!
    第一よしの、もしも私のお腹に卵が無かったらどうするつもりだったわけ?
    アンタはもうこのゲームから『脱落』してるのよ。正義のエージェント様は、魔族に踊らされてしまったヒロインを拘束して、私刑を加えるのが仕事なの?」

    「ち、違うんです、その……確かに個人的な恨みはありましたが
    皆さんをここに呼び出した一番の目的は、らうたさんがこのゲームから既に『解放』されているなら、残りの二人は助かるのではないか……と伝える事でして」

    このボサボサ頭……やっぱり最後に立ちはだかるのはアンタだと思ってたわ。
    最初に考えた通りだったわ。アンタは「敵」。
    敵は……叩き潰すまでよ。アンタのキーワードはパソコンを覗いたからわかってる。次に二人きりなったら……容赦しないわ。

    「……なるほど」

    「ど、どういうことですか!?」

    「まずお伝えします。私のキーワードは『こんにゃく』でした。
    すると、残るキーワードは『克曇満』『めいす』『おれつえー』の3つになります」

    キーワード

    プレイヤー達のキーワードは以下の5つ

  • 『克曇満』(鬼)
  • 『めいす』
  • 『おれつえー』
  • 『こんにゃく』(よしののキーワードと判明)
  • 『名無しドッター』(ムニサのキーワードと判明)
  • 「そして、もしらうたくんが解放されていれば、らうたくんが自身のキーワードを伝える事が出来るようになる。すると、残るキーワードは2つになる」

    「コロナという魔族、彼女からの情報でお互いに正解キーワードを言い合えば解除、される事は判っていますね」

    「残るキーワードとプレイヤーが2つずつであるなら、お互いをタッチし自分の物では無いキーワードを言い合えば解放されることになる」

    本来なら3人でも行える方法があったのだが……鬼が通常の方法では「解放」されないと予想されている今、その方法は使えない。
    そもそも、先ほどまでのらうたくんの態度を見ていると……やはり彼女は鬼の「解放」に関するルールを知っていた上でよしのくんをハメたのだ。
    つまり、彼女の目的は自衛ではなく……我々への攻撃だ。
    3人で「解放」を試みた場合……どうなるかは想像したくもないな。

    「なるほど!」

    「しかし……魔族の言うことを信じていいものか……」

    「(のぞみさんに聞こえないように……こそこそ。
    これは……最小人数で実験する事で確認できます)」

    「(……確かに。のぞみくんとひかりくんの二人はキーワードが判明している)」

    ひかり

    1章4話に登場した巨乳の少女。現在も無事。
    ひかりとのぞみは『ひど作』と『ぼぼん』のキーワードが割り当てられていることが既に判明している。

    「(ごくり……)」

    ……本当は、ひかりさんとのぞみさんのキーワードが解った時点でこれを試して……
    出来ることなら、全員で「解放」されたかったんです。
    でも、どうしてこんなことに……らうたさん……どうして私達を裏切ったのでしょうか……

    「(あとは彼女達に試してもらって、良い結果であれば、残るお二人は無事に鬼ごっこを抜けられる……と思ったのですが)」

    「(アンタ……NPCにはほんっとーに容赦ないわね……)」

    「(しかし、実験するのは賛成だ。コロナの言葉が本当なのか、情報として得ておくのは非常に重要だな)」

    この方法を私込みで実験されると、私は「解放」されないから、一人だけ脱落しちゃうのよね……
    うーん、私が鬼だってことが伝えられれば後は二人で勝手に「解放」されてゲーム終了なんだけど……
    自白すると罰ゲームらしいし、伝える方法は無さそうね。
    私は全員「脱落」させてもいいわけだし。何よりあのボサボサは私がこの手で潰してあげたいわ♥

    実験

    「えー……のぞみくん。結局我々のキーワードは特定することが出来なかった。
    コロナが言ったゲームからの脱出方法は、残り二人にならないと使えないんだ。」

    のぞみ「う……そうなの。がっかりね。」

    「しかし私達は、もう一人生き残っているヒロインを知っています。
    そして、のぞみさんとその人のキーワードが『ひど作』と『ぼぼん』であることもわかっています」

    「君たち二人はこの狂ったゲームから脱出することが出来るんだ
    脱出出来る内に脱出して欲しい」

    のぞみ「ほ、本当に!? でも、あなた達はそれでいいの……?」

    「構わない。我々は我々でなんとかするさ。
    それに手助けしてもらうにせよ、『解放』されている状態のほうが心強い」

    「大きな弱点を晒したまま、魔族と戦わなきゃいけない様な状態ですからね……」

    のぞみ「わかったわ! ありがとう! ようやく『解放』されるのね……!」

    数日間、暗い表情のままだったのぞみの顔に明かりが灯る。
    無邪気に喜ぶ彼女を実験に使ってしまうことに、よしのとシャロンの心はちくりと痛んだ。

    「あーやだやだ。秋恵はあんな連中みたいになっちゃダメよ。
    正義のエージェントなんて言っても、腹の底には何抱えてるかわかりゃしないわ」

    「ふぇ……そうなんですか?」

    「もう……先程から謝ってるじゃないですか」

    冷静になって考えてみると……きっとらうたさんにも事情があったのでしょう。
    私のキーワードがバレる要素も無かったですし、きっとらうたさんは運任せにキーワードを言って……それが偶然当たった。
    わざわざそんなことをしなければいけない理由が、きっとどこかにあるはずです。
    例えば……コロナに鬼専用のルールを追加されていたとか。

    ……ぁ、だめ、冷静になったら……淫毒の後遺症が、ぶり返し……て……

    のぞみはアイアン・メイデンの職員を付き添わせ、ひかりの家へと向かった。
    状況が一段落したことに、カルテルに残されたヒロイン達は安堵の溜息を漏らす。

    「ふぅ……なんとか落ち着いたな。」

    「よしのお姉ちゃんがいきなり怒ってて、本当にびっくりしました……」

    ……この実験が成功し次第、秋恵くんと二人で『解放』を試みよう。
    らうたくんが我々を狙っている以上、カルテルの内部であろうと安全地帯ではない……
    出来るだけ早く安全を確保しなくては……

    「全くだわ。仲間のヒロインに撃たれるなんて金輪際ごめんよ。
    聞いてるの、よしの? ……よしの?」

    らうたがよしのを振り向くと、よしのはうずくまり、両手で自分の肩を抱いていた。
    顔は紅潮しており、全身は小刻みに震えていた。

    「はぁ、ぁ……あうぅ……」

    「よしのお姉ちゃん!?」

    「よしのくん、どうした!?」

    「うぁ、だめ、触ら……ないで……くださいぃ……!」

    職員「いけない、後遺症の発作です! 鎮静剤を!」

    後遺症

    罰ゲームを受けたヒロインは、各シーンごとに継続的に戦闘不能になる。
    また、各シーンの任意タイミングで致命傷判定を行うことが出来、その結果次第では復活することも出来る。

    職員が緊急用ブザーを鳴らすと、治療班のエージェント達が数人駆け込んできた。
    よしのは素早く鎮静剤を投与され、担架に乗せられ搬送されていった。

    「何よ、全然回復してないじゃない……」

    ……うーん、「脱落」するとあんなことになっちゃうのね。
    ……少し罪悪感あるわね。

    「よしのお姉ちゃんは何も悪いことしてないのに……
    あんな状態に……酷いよ、魔族め……!」

    「緊張が解けたら、気持ちで押さえ込んでいた後遺症が噴き出してきたのだろう……」

    「…………」

    職員達も去り、取り残された3人のヒロイン達の間に重々しい空気が流れる。
    四方を囲む金属製の壁が鈍く輝き、まるで彼女たちの心の強張りを表しているかの様だった。

    結果

    それから少しの時間が経った。
    ヒロイン達の間に会話は少なく、らうたとシャロンは卵からくる淫毒に苛まれ、苦しそうに呼吸を繰り返していた。
    秋恵はそんな二人を必死に励ますが、好転しない状況に疲労し、口数を減らしていく。

    そんな中、カルテルの職員が部屋を訪れた。

    現在時刻

    現在時刻は3日目の午後3時頃。
    鬼ごっこの終了時刻まで残り9時間。

    職員「朗報です。互いにキーワードを言い合った二人ですが、二人共『解放』されました。
    淫毒による若干の快感はあったようですが、卵が胎内で崩れ、液状になって排出されました」

    解放

    鬼ごっこから「解放」されると、胎内の卵は孵化する前に砕けて消滅する。
    今回の場合、「脱落」と「解放」が同時に起こったため、胎内の卵は孵化しようとするが、完全に魔物の形を取る前に殻から消滅してしまい、結果液状のまま体外に排出されてしまったようだ。

    「わぁ……!」

    「はぁ、はぁ……なるほど、コロナの情報は正しかったということか」

    キーワードは確定している……らうたくんが鬼である以上、俺と秋恵くんで残り2つのキーワードを持っていることになる。
    あとはタイミングだ……怪しまれないタイミングで秋恵くんと二人で抜け出し、キーワードをお互いに言い合えば……

    「……うぅ、朗報といえば朗報ではあるわね。
    こっちはまだキーワードが確定出来ないから……あまり意味は無いけど」

    「でもでも、皆で助かる方法がわかったってことですよね!
    ちょっとだけだけど、安心しました!!」

    「……その通りだな。ここは素直に喜んでおこう」

    重苦しい空気が少しだけ和らいだ様に感じられた。
    その時、秋恵がぶるりと体を震わせる。

    「ふぁ……安心したら、その、おしっこが……
    す、すいません! またトイレ借りれますか?」

    秋恵がトイレ……? のぞみはこの場にいない、よしのは治療中……
    チャンスね! あとは職員の目さえどうにかすれば、この部屋にはボサボサと私で二人きり!
    ボサボサをここでハメて、戻ってきた秋恵も……うーん、秋恵を手に掛けるのはちょっと可哀想だけど、見られちゃうから仕方ないわよね。
    あとはここから脱出して、適当に時間を潰せば私の完全勝利ね!

    職員「どうぞ。場所はもう大丈夫ですか?」

    「はいぃ、覚えてます……! い、行ってきます!」

    「……大丈夫か? 漏らさないようにな。
    ……ん、俺も行きたくなって来た。秋恵くん、一緒に行こう。案内してくれ。」

    秋恵くんがトイレ……? 今俺も抜け出せば二人きりになれるな。
    ……いや、考え方が逆だ! 秋恵くんが居なくなってしまうと、俺はこの部屋に鬼と二人きりで残されることになる! ここは、必ず秋恵くんを追って部屋を抜けださなければいけないんだ!
    まるで狼と羊のゲームだな……危ないところだった。

    「あ、あうぅ、わかりました! はやくはやくっ!!」

    らうたを残し二人は慌ただしく部屋をかけ出して行った。

    「……何なのよ、もう」

    ……ちっ、逃げられたわね。
    これ、完璧に気づかれてるわね……最初から最後まで私の狙いはボサボサ、あんただったのに……
    よく逃げてくれたもんだわ。うーん、完敗。
    まぁ、これで二人が勝手に「解放」してくれるでしょうし、これで鬼ごっこは終了ね。あー疲れた。

    リノリウムの廊下を駆けていく二人のヒロイン
    片方は必死に尿意を耐えている子供らしい顔をしているが、もう片方は何か思い詰めた表情を浮かべている

    「……秋恵くん、トイレが終わったら話したいことがあるんだ」

    「はぇっ!? は、はいぃ、よくわからないけど、わかりました!」

    「よろしく頼む。大事な話なんだ」

    秋恵はトイレに駆け込んだ。
    シャロンは扉の前で止まり、腕組をしながら背中を逆側の壁に預けた。
    そのまま天井の照明を見上げ、秋恵の帰りを待つ。

    「ふぅー、お待たせしました。お話って何ですか?」

    「秋恵くん、君のキーワードが解った。
    あぁ、タッチはしない。落ち着いて聞いてくれ」

    「!!? え、ぇ、な、なんで……!?」

    「そして、君のキーワードが解ったということは、君にも俺のキーワードがわかるはずだ。解るか?」

    「わ、解りません! どういうことですか……?」

    「……らうたくんがよしのくんを陥れた犯人だ。ほぼ間違いない。
    そして、らうたくんは鬼だ。よしのくんを陥れた理由も恐らくそこから来たのだろう」

    「ぇ……?」

    「情況証拠からみてもほぼ間違いない。コロナが直接よしのくんに手を下す意味が無いし、メガロはあの日の挑戦権を既に使ったと言っていた」

    「恐らく鬼は、誰かを『脱落』させても『解放』されないのだろう
    鬼が『解放』される条件は唯一つ。3日間、誰からも『脱落』させられること無く、生き延びる事だ」

    「そ、そんな……じゃあ、らうたお姉ちゃんが『克曇満』で、鬼で、よしのお姉ちゃんをあんな目に遭わせた犯人……!?」

    「……その通りだ」

    「じゃあ、シャロンお姉ちゃんのキーワードは……残った……」

    「おっと、ストップ! それ以上言うと、自白のルールに引っかかる可能性がある。
    それを言うのはお互いにタッチしてからだ。」

    「お互いにタッチ……? らうたお姉ちゃんは置いてけぼりにしちゃうんですか!?」

    「……申し訳ないが、らうたくんは信用出来ない。俺も彼女と二人きりにならない様、必死に立ち回ったんだ。
    恐らくらうたくんと二人きりになった瞬間、俺はやられていただろう……」

    「そんな……! でも……」

    「それに、彼女のためでもあるんだ。」

    「らうたさんの……ため……?」

    「さっき言ったはずだ…… 鬼は誰かを『脱落』させても『解放』されない。
    3人でお互いのキーワードを呼び合ったら、我々は『脱落』と同時に『解放』されるが、らうたくんだけ『解放』されず、一人だけ『脱落』する結果だけが残る」

    「……なる、ほど」

    「だから、ここで二人で実行するのが最適なんだ
    ……っ、俺の体調も、限界……! わかって、くれたか?」

    「……わかり、ました。らうたお姉ちゃん、ごめんね……」

    シャロンの脳内に淫毒の霧が立ち込めていく。
    解放を目前にして、それまで明晰であった思考は桃色に染まってしまった。

    「それじゃあ、その……し、下を脱がないと、排出した卵の液体で、下着を濡らしてしまう……」

    「し、した……したぁ!?
    だ、ダメ、ダメですぅ! これは脱げません!!」

    「何を言っているんだ……魔族の体液だぞ?
    そんなものに濡れたら、大切な下着が二度と使えなくなってしまう」

    「と、とにかくダメなんです! 今は、今だけは!!」

    「は、早くしてくれ……! もう、俺は、限界なんだ……
    女同士なんだ、恥ずかしいことも無いだろう……!?」

    あとずさる秋恵を壁に追い詰め、シャロンは秋恵のスパッツに手を掛ける。

    「うぅ、脱がすぞ……? 下着を汚してしまっては、親御さん方に申し訳が立たない……」

    「ふえぇ!やめてくださいー!!」

    ずるっと勢い良くスパッツが脱がされる。
    すると、張りのある布の下に封じ込められていた秋恵のペニスが、勢い良くシャロンの目の前に飛び出した。

    「……!? え……?」

    「あうぅ、ち、違うんです! これは……その……」

    「ぅ……ぁ、おとこの、ひとの……」

    「違っ……! その、卵に寄生されてから、突然生えてきて……!
    わたしは元は女の子なんです!」

    秋恵は必死に自分の性別をアピールするが、シャロンとってそんなことは最早どうでもよかった。
    目の前に曝け出された男性器に、シャロンの最後の理性は粉々に吹き飛ばされた。
    淫気のフィルターにかけられた視界には、既に秋恵のペニスしか写っていない

    「ぁ……これ……本物……♪」

    「ダメぇ! 触らないでくださいぃ!!
    あ、ふあぁ……!」

    「すご……! びくびくっ、てぇ……♪
    あは、大きくなって来た……♪♪」

    シャロンは片手で自分のズボンとパンティを下ろしながら、もう片方の手で秋恵のペニスを刺激する。
    その目は最早桃色に濁り、正常で無いことは秋恵から見ても明らかだった。

    「あ……シャロンお姉ちゃんのお股……
    わたしと同じ、つるつる……きれい……っ!? おちんちんが、もっと大きくなって……!?」

    「わ、俺で興奮しているのか……?
    す、少し、嬉しい……♪」

    下半身の装束を脱ぎ去ったシャロンは、その手で秋恵を抱き寄せる。
    少し腰を落とし、自らの腰を秋恵のペニスへと寄せていく。

    「だ、ダメですっ!! それはなにか、絶対にしちゃいけない事な気がします!!
    どうすれば……! た、確か、えっちな事をすれば、少し症状が治るって……」

    「ふーっ、ふー……♪ 女同士なら……大丈夫……
    はじめてには、数えられない……はず……♪♪」

    「えっちな事……えっちな事……!
    うー、シャロンお姉ちゃん、ごめんなさいっ」

    腰を落としたシャロンの首に手を回し、秋恵は爪先立ちになりながら唇にキスをした。

    「……んむっ!?」

    「ん、んうぅ……ちゅ……♥」

    秋恵の唇がシャロンの唇に重なる。
    子供らしいバードキスであったが、突然の性的刺激によって、少しだけシャロンの目に理性の光が灯る。

    「……ぁ、シャロンお姉ちゃん、わかりますか!?」

    「あ、秋恵くん……♪」

    「キーワードを言い合うんです! いっせーの、で行きますよ! いいですか!?」

    「うぁ、わ、わかった……」

    「いっ、せー、の……」

    二人は下半身裸のまま、抱き合ってキーワードを宣言した。

    「『めいす』!!」

    プレイヤー

    プレイヤーとキャラクターの組み合わせが判明した。
    詳細は以下の通り。

    キャラクター:蔦梨らうた
    プレイヤー:克曇満

    キャラクター:シャロン=ホークス
    プレイヤー:めいす

    キャラクター:倉田秋恵
    プレイヤー:おれつえー

    キャラクター:藤森よしの
    プレイヤー:こんにゃく

    キャラクター:ムニサ=アラギ
    プレイヤー:名無しドッター

    「『おれつえー』!!」

    言い終わると、ふたりの下腹部が鈍く光った。
    途端、二人は強い性的快感に襲われる。

    「ふぁ、あ、ああぁ……♥」

    「うあぁ、あぁぁあっ……♪」

    二人は快楽に耐えるよう、抱きしめ合う腕の力を強める。
    やがて、二人の膣口から緑色に濁った液体が流れ出てくる。
    しかし、彼女たちの瞳はその穢れには目もくれず、互いの顔だけを映し合っていた。

    「シャロン、お姉ちゃん……♥」

    「あきえ、くん……♪」

    頂点まで突き上げられた二人は、再び唇を重ねた。
    二度目のキスは、少しだけ深いものになった。

    ひとり

    「……はぁ、はぁ。う、上手くいったんですね?」

    一人取り残されたらうたの元に、パジャマ姿で点滴スタンドを持った姿のよしのが現れる。
    先程らうたを襲った時とは比べ物にならないほど弱々しく、まさに病弱な少女と呼ぶに相応しい装いだった。

    「……なによ、生きてたの?」

    「元から死んでいませんよ……
    それより、まだひっかかる事が」

    「……っ、勿体ぶった話を聞くほど万全な体調じゃないの。早く話しなさいよ」

    体調が……芳しくないっ……!
    早く……「解放」してよっ……! もうシャロンと秋恵は二人で「解放」された頃でしょ……!?

    「大した事じゃないんですけど……」

    よしのは完全に失調しているらうたに対し、少しだけ憐れむような表情を浮かべた。
    らうたは椅子に座り、苦しそうに股間を抑えている。

    「鬼、というネーミングがずっと疑問だったんです……」

    「……疑問? どこがよ?」

    「鬼というのは普通、追いかける側ですよね? それなのに、この鬼ごっこでは逆に狙われる立場なんです」

    「鬼なんて、恐ろしい言葉で飾られて……その実、必死に逃げ回りながら他のヒロイン達と戦わなきゃいけない。損な役回りですよね」

    「何よ、私が鬼って決まったわけじゃ……」

    不意によしのがらうたの体を触る。

    「『克曇満』」

    ……!?
    え、あ、ぅ……大丈夫よね、そりゃそうよ。
    こいつは私が「脱落」させたんだもの。
    くっ……辛い時に驚かせてくれちゃって……アンタは早めに叩いておいて正解だったみたいね、厄介な奴だわ。

    らうたはビクッと体を大きく震わせた。
    俯いていた顔を上げ、少し怯えが混じった目でよしのを睨む。

    「……っ! あんたは、もう脱落したはずでしょ、何の真似よ。」

    「ふふ……ビックリしました?」

    「ふん、私が鬼だって決まったわけじゃないって言ってるじゃない。カマかけたって無駄よ……」

    「……私は、やっぱりらうたさんが鬼だと思います。
    でも、貴女が助かるにはこうするしか無かったのでしょうか……」

    「…………」

    「私達はこの3日間、行動を共にしてきました。一緒に調査して、一緒に戦って、一緒にお泊り会までして……」

    「私は、幼い頃から病弱でした。外で遊ぶことも、友達を作ることも、私にとっては非常に難しいことだったのです」

    「……ふぅ……うぅ」

    「テレビの向こう側で、一生懸命に活動する貴女は、私の憧れでもありました。
    『私と同世代の女の子が、こんなにも頑張ってる』私には貴女が輝いて見えていたのです」

    淫毒で……すこし頭がぼーっとしてきました……
    らうたさん……素敵な女性だと思っていたのに、どうしてこんなことを……きっと何か理由があるのでしょう……

    「……当然よ。私は、トップアイドルに……なるんだから……」

    「私は今回の戦いの中で、そんな貴女と友達になれたことがとても嬉しかったのです。
    魔族と戦わなければいけないという絶望の中で、それだけが唯一の希望でした」

    「どうして相談してくれなかったのですか?
    いえ、自白のルールがある以上、相談は出来ないですね……」

    自白のルール

    プレイヤーは、自らのキーワードを他人に伝えるあらゆる行為が禁止されている。
    コロナによって、「どこまでが自白か」のラインが明確にされていないため、プレイヤー達にはどういった行為が「自白」に値するのかがわかっていない。

    「面倒臭いルールを作ってくれたものね。
    息苦しくて……仕方ないわ」

    「私は、5人で協力してこのゲームを平和に終わらせたかったです。
    せめて、私達を信用してくれれば……」

    こいつ、まだ何か勘違いしてるわね……
    特別なルールなんて何もないわよ。私は今回のメンバー全員を潰すつもりだったんだから。
    武衣栄市で目立つのは私一人でいい……アンタみたいに可愛いしスタイルも良い女は邪魔なのよ……!

    「でも、本当は貴女だって平和にゲームを終わらせたかったはず。
    きっと、鬼のあなたにだけ課せられた特別なルールが……あるのではないですか?」

    「……私……は」

    廊下に足音を響かせ、シャロンと秋恵が部屋に戻ってくる。
    二人の顔は何故か上気しており、どことなくぎこちない仕草でお互いを気にかけている様に見える。

    「…お、よしのくん。か、体は大丈夫か?」

    「はうぅ……すっごい経験しちゃいました……」

    「はい……いえ、あまり大丈夫とは言えませんね」

    「……戻ってきたのね、二人」

    ……あれ、普通に戻ってきた?
    キーワード、言い合わなかったのかしら……?
    まだ、私の体、「解放」されてないわよね……

    「ふむ、取り込み中か、今どういう状況だ?」

    「鬼についてのご高説を賜ってたのよ……なによ、スッキリした顔してるじゃない」

    「あ、はい。鬼ごっこという割には、鬼の扱いが妙だなと思いまして」

    よしのは自分の考えを戻ってきた二人に話した。

    「ふむ……確かにこの鬼ごっこ、追いかけられる方が鬼というのはおかしいな。
    では、追いかける人間がいなくなった鬼はどうなるんだろうか」

    「どうなるって……ケイドロと同じルールなんだから、鬼の勝ちじゃない?」

    「その割には、らうたくんの体調に変化が見られないが」

    「…………?」

    「いやすまないな。実は先ほど、トイレに行く途中で秋恵くんとキーワードを言い合ったのだよ。これで我々も解放された」

    「えへへ……なぜか、おちんちん……消えなかったんですが……

    状態異常:ふたなりについて

    ふたなり状態の解除は演出上、「消える」か「萎える」かをプレイヤーが選べる。
    つまり、一度ふたなりのバッドステータスを受けた場合、ペニスが消滅するか、そのままかはプレイヤー(キャラクター)の好みによって自由に選択してよい。

    「な、ななななななんですって!? どうして私をハブったのよ!」

    らうたは激昂し、座ってた椅子を蹴倒しながら立ち上がる。
    シャロンはそれに意を介さず、腕を組んだまま話を続けた。

    なんですって……!?
    二人が「解放」されてくるのは予想してたけど、私以外のゲーム参加者が全滅したのに、まだゲームが終わってない……!?

    「ふぅ……実は俺はらうたくんが黒だと断定して行動していたからな。
    だから俺は寝るときすらキミと一緒にならなかったろう?」

    「やはり……そうなりますよね」

    「……ふん、あんたと一緒なんて、こっちからお断りよ。
    それより、これで全員のキーワードはバレちゃったわけね?」

    「そうなるな」

    「んで、私以外は全員『脱落』か『解放』されたわけね。
    ううぅ、じゃあこれで、このふざけた遊びは終わりってことでしょ……?」

    「……そのはずだ」

    「そのはず……だよね?」

    「はやく……っ、私も解放しなさいよ……!
    ……コロナ! 出てきなさい!!」

    虚空に向かって叫ぶも、コロナは現れない。
    その間にも、らうたの病状はどんどんと悪化していく。

    「……くっ、はぁ、はぁ……」

    「ルールだと……まってるだけで『解放』ですよね?」

    「ルールは守る奴の様だし……0時には『解放』はされるだろうが……」

    「あぅ、う、あと、8時間以上……!?」

    「……辛いでしょうが、耐えて下さい。
    時間までカルテルでバックアップします」

    「それは助かるな。そうなると、あとはコロナとの面会場所についてだが……」

    「カルテルの内部には現れてはくれないでしょうね……
    そうなると、あの魔族が来やすい場所に我々が赴くことになりますか」

    「恐らく我々がどこにいても、奴は現れることだろう。
    あとは、いざという時に逃げ易い様、広くて人目につかない場所が望ましいが……」

    「公園とか……? 夜なら人も少ないと思います」

    公園

    武衣栄市内にある児童公園。ここからそう遠くない距離にあるようだ。
    1章2話、1日目の早朝に「引っ掻き回し役」を募集するためにコロナに利用された。その後ヒロインが訪れるものの、その頃にはもうほぼ何の痕跡も残っていなかった。

    「なるほど……ここの近所なら、1日目の集合場所にされた児童公園があるな。
    午前0時前になったらそこに行こう」

    「わかりました。それでは……そろそろ私も辛くなってきましたので
    らうたさんと一緒に治療を受けることにします。」

    「うぁ……だ……め、もうだめ…… 我慢出来ないよぉ……」

    らうたは遂に限界が来たようで、人目もはばからずスカートの中に手を伸ばしてしまう。
    もう片方の手は胸に向かっており、その先端部分に当たる場所は、既に乳液によってシミが出来始めていた。

    「らうたさん……もう少し頑張ってください。
    お二人も、良ければカルテルでご休憩ください。生活に必要な施設はひと通り揃っています」

    カルテルの内部

    カルテルの構成人員は多くが女性であり、内部には女性が生活するための施設も整っているようだ。

    「あぁ、助かる。折角なので施設の見学もさせて貰うよ」

    「わーい! すっごい広くて、遊園地みたいですね!」

    「ムニサさんも快方に向かっています。
    夜には合流出来るといいのですが……」

    「ムニサお姉ちゃん……良くなるといいね……」

    「ムニサくんか……彼女も謎の自爆を見せたが
    あれもらうたくんが何か関与していたのか……?」

    「わかりません……ただ、らうたさんにも何らかの事情があったと思うのです。
    きっと、私達には言えない……何か……」

    「あ……あうぅぅ、わたしは、わたしはトップアイドルに……!!
    えっちな、こと……なんかぁ……♥」

    らうたは完全に正気を失っており、言葉とは裏腹に両の手は自らの求める部分を積極的に弄り回していた。
    「解放」された3人に憐れまれながらその姿は、鬼であるらうたが勝利したとはとても言いがたい光景であり、このゲームにおける鬼の定義の不自然さを如実に表していた。

    「いけない……! 直ぐに治療室に運びます!
    秋恵さん、シャロンさん、それでは。」

    職員を呼び、よしのは車椅子、らうたは担架で部屋から退場した。
    静かになった室内に、秋恵とシャロンだけが残った。二人は顔を見合わせ、先ほどの出来事を思い出し、お互いに少し顔を赤らめている。

    「そ、それでは、館内の見学でもしようか。
    カルテルには今までコネクションを持っていなかったので、いい機会だ」

    「そ、そうですね!」

    「それにしても……らうたくんに特別な理由……ふーむ」

    「……どうしたんですか?」

    「あぁいや、少し考え事をしていてね。
    げに難しきは人の心かな……うーむむ」

    かくして、心休まる束の間の時間が二人に訪れた。
    シャロンはカルテル内の各所で施設の研究を行い、同行した秋恵は見たことの無い設備に目を輝かせている。

    やがて、鬼ごっこが開始されてから3度目の夜が訪れる。


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